相続法大改正(その2:自筆証書遺言の法務局での保管)
こんにちは。
新潟県三条市のひめさゆり法律事務所です。
相続法大改正を紹介するシリーズの第2回目は、自筆証書遺言を法務局で保管する制度の新設です。
みなさん、テレビドラマのお通夜やお葬式といった場面で、集まった家族や親戚が、見つかった遺言をめぐって
「この遺言の文字は、亡くなったお父さんの筆跡とは明らかに違う。これは別の誰かが勝手に作成した遺言に違いない」
「この遺言の一部だけ明らかにあやしい。この部分は、亡くなったお父さん以外の誰かによって改ざんされたに違いない」
と言い争っているシーンを観たことはありませんでしょうか?
なぜこのような家族・親族間の言い争いが発生していたのかというと、実は、これまでは、自筆証書遺言を公的な機関が保管してくれる制度がなかったからなのです。
また、公的機関による保管制度がなかったことにより、遺言をめぐる言い争いになる以前の問題として、そもそも自筆証書遺言が発見されなかったというケースもありました。
今回の相続法大改正では、自筆証書遺言の第三者による偽造・改ざんや、自筆証書遺言が発見されないというトラブルを防止するため、自筆証書遺言の法務局での保管制度が新設されました(『法務局における遺言書の保管等に関する法律』の新設)
1.遺言者による申請
この法律の新設により、自筆証書遺言を作成した人は、法務局での保管を申請することができるようになります(法4条1項)。
この申請時には、遺言作成者自身が法務局に行く必要があります(法4条6項)。これにより、法務局で保管される自筆証書遺言については、第三者による偽造や改ざんのおそれを気にする必要がほとんどなくなります。
遺言作成者は、自身が法務局に再度行くことにより、法務局での自筆証書遺言保管申請をいつでも取り下げることができます(法8条)。
2.相続人等による確認
遺言者の相続人等は、遺言者の死後、法務局に対し、法務局に保管されている自筆証書遺言に関する情報が記載された書面の交付を要請したり、遺言書そのものの閲覧を要請したりできるようになります(法9条1項・3項)。
遺言作成者が亡くなった後にならないとこの要請ができない点に注意してください。
3.法務局による他の相続人等への通知
法務局は、要請のあった相続人に対して遺言に関する情報が記載された書面を交付したり、遺言書を閲覧させたりした場合には、他の相続人・遺言執行者・受遺者に対し、法務局が自筆証書遺言を保管している旨を通知します(法9条5項)。受遺者とは、法定相続人ではないけれども、相続財産を受け取れる旨の記載が遺言に書かれている人を意味します。
この通知の後、遺言執行者や相続人同士の話し合いが始まることになります。
4.検認手続が不要に
テレビドラマでよく、家族や親族が裁判所に集まって、遺言書を開封して内容を確認するシーンがあります。この手続は、遺言書の検認といいます(民法1004条)。
この新制度に基づき法務局で保管された自筆証書遺言については、裁判所での検認が不要になります(法11条)。
5.ポイント
自筆証書遺言の法務局保管制度においては、次の3つのポイントに注意してください。
- 保管先は、法務局です。公証役場ではありません。
- 自筆証書遺言を作成した場合に法務局に保管を申請することが義務付けられるわけではありません。ただし、遺された家族・親族間のトラブルの種を1つでも減らすため、自筆証書遺言を作成する場合は、この保管制度を利用した方がよいのではないでしょうか。
- 自筆証書遺言の法務局保管制度の開始日は、2020年7月10日です。
第3回は、短期配偶者居住権の新設について紹介します。
相続法大改正紹介シリーズ
第1回:自筆証書遺言の方式緩和
第2回:自筆証書遺言の法務局での保管制度
第3回:配偶者短期居住権 Part 1