相続法大改正(その3:配偶者短期居住権 Part 1)
こんにちは。
新潟県三条市のひめさゆり法律事務所です。
相続法大改正を紹介するシリーズの第3回目は、配偶者短期居住権の新設です。
みなさん、想像してみてください。
- あなたは、亡くなった旦那さん名義の自宅建物に、長年にわたって住み続けていました。
- あなたは、住み続けたその家から引っ越すのも一苦労するような年齢です。
このようなケースで「旦那さんが亡くなった直後すぐに自宅を明け渡しなさい」と言われたら、遺された奥さんは、とても大変ですよね。
今回の相続法大改正の前でも、裁判所は「亡くなった直後すぐには自宅を明け渡さなくてもよい」という考えを採用していました(最判平成8年12月17日民集50巻10号2778頁)
しかし、この裁判所の考えを前提にしたとしても、亡くなった旦那さんの遺言に「奥さんが住んでいる自宅の所有権は、第三者(たとえば愛人)に譲り渡す」と書かれていたような場合(!)、遺された奥さんは、すぐに家を明け渡さなければならない可能性がありました。
そこで、今回、たとえ愛人に自宅の所有権を譲渡する内容の遺言が見つかったとしても、遺された配偶者が少なくとも6カ月間は住み続けることができるという制度(配偶者短期居住権)が新設されました(新民法1037条~1041条)
旦那さんが亡くなった場合、奥さんが亡くなった場合のどちらでも同じく利用できる制度ですが、今回は、旦那さんが亡くなって、奥さんが遺されたというケースを用いて紹介します。
1.配偶者短期居住権設定の条件
短期居住権が設定される建物は、遺された奥さんが、
① 旦那さんの相続開始時(死亡時)に
② 無償で
③ 住んでいたもの
に限定されます(新民法1037条1項)
亡くなった旦那さんが複数の建物を所有していた場合であっても、遺された奥さんが住んでいなかった建物には、短期居住権は設定されません。
また、旦那さんがマンション1棟を持っていたとしても、短期居住権が設定されるのは、そのマンションの中でも奥さんが住んでいた部分だけです。
旦那さんと奥さんが同居していたことは、短期居住権の設定条件ではありません!
2.配偶者短期居住権の期間
配偶者短期居住権が設定される期間は、次の①と②によって異なります。
① 遺された奥さんが住んでいた建物が遺産分割の対象となる場合
たとえば、遺された奥さんの他にも相続人(例:子ども)がいて、旦那さんが遺言を残さなかったような場合があてはまります。
この場合、短期居住権の期間は、次の(ア)(イ)のうち、いずれか遅い方の日までです(新民法1037条1項1号)
(ア)遺産分割協議や調停・審判により、奥さんが住んでいた建物の持ち主や利用関係がまとまるまでの間
(イ)旦那さんが亡くなった後、6か月間
「いずれか遅い方の日まで」というのは、旦那さんが亡くなってすぐに遺産分割協議が成立したとしても、少なくとも6か月間は、短期居住権の効力が続きます。また、遺産分割協議がいつまでもまとまらない場合は、旦那さんが亡くなってから6か月以上経過しようとも、遺産分割がまとまるまでは、短期居住権の効力が続きます。
② 遺された奥さんが住んでいた建物が、旦那さんの遺言や奥さん自身の相続放棄により、他の家族や第三者の所有物になる場合
子どもなどの他の家族や第三者(愛人など)に対して奥さんの住んでいた建物の所有権を旦那さんが遺言により譲渡した場合、短期居住権の期間は、その新所有者が短期居住権の消滅を申し入れてから6か月間です(新民法1037条1項2号)。
たとえば、遺言によって建物の新所有者となった子どもが、お父さんが亡くなって3か月経過後にこの消滅申入れをお母さんに対して行った場合、遺されたお母さんは、お父さんの死亡時から9か月間は、短期居住権に基づき住み続けることができます。
また、旦那さんの遺言といった場合以外にも、遺された奥さんが相続放棄をした場合も、相続放棄に伴い建物の新所有者となった人が短期居住権の消滅を申し入れてから6か月間は、短期居住権の効力が続きます(法制審議会(相続関係)部会第25回会議(平成29年12月19日)資料25-2)。
相続法大改正(その4:配偶者短期居住権 Part 2)では、配偶者短期居住権に基づき建物を利用する配偶者の義務や、建物の修繕費や固定資産税の負担などについて紹介します。
相続法大改正紹介シリーズ
第1回:自筆証書遺言の方式緩和
第2回:自筆証書遺言の法務局での保管制度
第3回:配偶者短期居住権 Part 1