新型コロナウイルスをめぐる法律問題(第1回:従業員の休業)

こんにちは。

新潟県三条市のひめさゆり法律事務所です。

 

連日、ニュースでは新型コロナウイルスの感染拡大に関する情報が報じられています。

当事務所でも「いま私たちにできること」として、新型コロナウイルスに関連する法律問題について発信していくことといたしました。

 

第1回目は、従業員の休業についてです。

 

新型コロナウイルス問題に関連して、従業員が会社を休む場合・休まざるを得なくなる場合として、たとえば、次のような場合が考えられます。

 ① 従業員自身が新型コロナウイルスに感染した

 ② 職場で感染者が出たため、職場が一斉休業になった

 ③ 従業員が感染者の家族や濃厚接触者だった

 ④ 従業員が出張や旅行で感染多発地域に行っており、帰ってきてから日が浅い

 ⑤ 微熱や咳など、感染が疑われる症状がある

 ⑥ 新型コロナウイルスの影響で仕事が激減し、会社から自宅待機要請があった

 ⑦ 子どもの学校の休業により、面倒を見るために仕事を休まなければならなくなった

 

従業員の休業について、会社が考えなくてはならない問題としては、主に

 (i) 従業員が就業可能な場合でも休ませることができるか

 (ii) 従業員の休業中の給料を支払うべきか

の2点があります。

 

今回は「(i) 従業員が就業可能な場合でも休ませることができるか」についてご説明します。

上記のケースでいうと、③から⑤の場合が対象です。

 

新型コロナウイルス対策として会社が従業員を休ませる主な目的は、職場内の感染拡大予防だと思います。

 

ただ、従業員自身はまったく元気で勤務には問題なく、出社して仕事をしたい、というような場合も考えられます。このような場合、会社としては、そもそも従業員を休ませるべきか、また、休ませるとしても法的に問題ないかどうかの判断に悩むと思います。

 

結論としては、感染が疑われる従業員の症状が悪化したり他の従業員に対して感染が拡大したりすることを防ぐため、新型コロナウイルスと疑われる症状が出ていたり、行動履歴等から感染が疑われたりする従業員については、休ませることが望ましいのではないでしょうか。

 

法律的な説明をすると、会社(使用者)は 法律上、会社(使用者)は、従業員(労働者)に対し、健康配慮義務および職場の安全管理義務を負い、職場の秩序維持権限を有しており、その権限に基づくものとして、従業員に就労を認めるかどうかの裁量を持っています(東京地判平成5年9月21日参照)

 

つまり、会社は、ある従業員を働かせることによって職場の安全や秩序が害される場合には、その従業員の出社を認めない、という措置を取ることができます。新型コロナウイルスの感染が疑われる従業員を出社させ、結果的にその従業員が重症化したり、他の従業員をウイルスに感染させてしまったりした場合は、まさに職場の安全や秩序が害されてしまう場合といえます。そこで、このようなリスクを考慮し、感染が疑われる従業員は休ませたほうが良い、ということになります。

 

ただし、次回ブログにて説明しますが「休ませる=給料を全く支払わなくて良い」とは限りません。従業員に対して休業中の給与の補償をしない場合には、従業員から不満が出るだけでなく、「体調が悪いけど無給で休ませられてしまうならば会社には黙っておこう」といった従業員が出社してしまい、結果的に感染拡大につながってしまう可能性があります。

したがいまして、休業させるかどうかの判断は、給与支払や休業手当の支給の要否とセットで慎重に考える必要があります。

 

また、個別的な判断に迷わないように「○日以内にどこどこに行っていた従業員は○日間自宅待機にする」や「毎朝検温を義務付けて○℃以上なら休ませる」など、事前に休ませる場合の基準を作っておくことも重要です。

 

なお、上記ケースの⑥のように、会社が感染拡大防止以外の理由で従業員を休ませる場合は、感染拡大防止の場合のように、会社が休業を命じることができる法的な根拠があるわけではありません。

詳しくは第2回に説明しますが、このような場合に従業員を休ませるには、法的には休業手当を支払わなければならないという結論になる可能性が高いため、従業員との間で休業中の給与補償の話をして双方納得した上で休んでもらう、という対応になります。

 

次回は「(ii) 従業員の休業中の給料を支払うべきか」について説明します。

 

(おことわり)本稿は、ご参考のための一般的な見解として、作成時の情報・知見等に基づき作成しております。個別具体的な問題につきましては、弁護士等の専門家にご相談ください(当事務所お問い合わせフォーム