相続法大改正(その4:配偶者短期居住権 Part 2)

こんにちは。

新潟県三条市のひめさゆり法律事務所です。

 

相続法大改正を紹介するシリーズの第4回目は、第3回に引き続き、配偶者短期居住権の紹介です。

今回は、配偶者短期居住権に基づき建物を利用する配偶者の義務や、建物の修繕費や固定資産税の負担などについて説明します。

 

3.配偶者短期居住権を利用する人が守るべきルール

 ① 従前の用法に従うこと

遺された奥さんは、短期居住権の設定された自宅建物を、それまでと同じ使い方で利用しなければなりません(新民法1038条1項)

したがって、旦那さんが亡くなった後、それまでは自宅としてだけ利用していた建物でお店を始めることはできません。

また、奥さんには、善管注意義務も課されています(新民法1038条1項)

 

 ② 自身で利用すること

遺された奥さんは、対象建物の所有者から承諾を得ない限り、第三者に対象建物を使用させることができません(新民法1038条2項)

したがって、対象建物を勝手に第三者に貸し出したり、対象建物で再婚相手と勝手に同居したりすることはできません。

また、配偶者短期居住権という権利自体を第三者に譲り渡すこともできません(新民法1041条・1032条2項)

 

 ③ 権利主張者出現時における所有者への通知

遺された奥さんは、たとえば「この建物は、亡くなった旦那さんの所有物件ではなく、元来は俺が持っている建物である」と主張する人など、対象建物について権利を主張する者が出てきた場合、対象建物の所有者が既に知っている場合を除き、対象建物の所有者に対し、その旨を遅滞なく通知しなければなりません(新民法1041条・1032条3項)

 

4.対象建物の修繕や費用負担

 ① 修繕

遺された奥さんは、自身で対象建物の修繕をすることができます(新民法1041条・1033条1項)。修理が必要であるにもかかわらず自分で修繕をしない場合は、建物の所有者が修理が必要であることを既に知っている場合を除き、対象建物の所有者に対し、その旨を遅滞なく通知しなければなりません(新民法1041条・1032条3項)

遺された奥さんが必要な修繕を行わない場合、対象建物の所有者が修繕を行うことができます(新民法1041条・1033条2項)

 

 ② 費用負担

遺された奥さんは、通常の必要費を負担します(新民法1041条・1034条1項)。「通常の必要費」とは、たとえば、固定資産税や必要不可欠な修理費用がこれに該当します。

建物所有者は、通常の必要費を遺された奥さんにかわって立替払いした場合、建物返還から1年以内に、遺された奥さんに対して立替金の返還請求をする必要があります(新民法1041条・600条2項)

 

臨時の必要費(例:自然災害で破損した物の修理費用)や有益費(例:自宅内バリアフリー設備導入費用)は、遺された奥さんからの請求により、建物の所有者が負担することになります。ただし、建物所有者は、裁判所から許諾を受けることにより、この費用負担を相当の期間、先延ばしすることができます(新民法1041条・1034条2項・583条2項・196条)

遺された奥さんは、臨時の必要費や有益費を立替払いした場合、建物返還から1年以内に、建物所有者に対して立替金の返還請求をする必要があります(新民法1041条・600条1項)。

 

相続法大改正(その5:配偶者短期居住権 Part 3)では、短期居住権の消滅などについて紹介します。

 

相続法大改正紹介シリーズ

第1回:自筆証書遺言の方式緩和

第2回:自筆証書遺言の法務局での保管制度

第3回:配偶者短期居住権 Part 1

第4回:配偶者短期居住権 Part 2