相続法大改正(その5:配偶者短期居住権 Part 3)

こんにちは。

新潟県三条市のひめさゆり法律事務所です。

 

相続法大改正を紹介するシリーズの第5回目は、第3回第4回に引き続き、配偶者短期居住権の紹介です。

配偶者短期居住権の最後の紹介となる今回は、配偶者短期居住権の終了や、配偶者短期居住権の財産的価値・評価などについて説明します。

 

4.配偶者短期居住権の終了

配偶者短期居住権は、次の①から④の場合に消滅します

 ① ルール違反した遺された奥さんへの請求時

遺された奥さんには、(ア)対象建物をそれまでと同じ使い方で利用しなければならないという義務、(イ)善管注意義務、(ウ)第三者に勝手に使用させることができないという義務が課せられています(新民法1038条1項・2項)

遺された奥さんがこれら義務のいずれかに違反した場合、対象建物の所有者は、遺された奥さんに対する意思表示により、配偶者短期居住権を消滅させることができます(新民法1038条3項)。自動的に終了するわけではない点に、注意してください。

 

建物所有者は、遺された奥さんのルール違反を理由に損害賠償請求をする場合、建物返還から1年以内に行う必要があります(新民法1041条・600条)

 

 ② 遺された奥さんによる配偶者居住権の取得時

今回の相続法大改正では、配偶者短期居住権のほかに、配偶者(長期)居住権も新設されました。遺された奥さんがこの配偶者居住権を取得した場合、配偶者短期居住権は消滅します(新民法1039条)

配偶者(長期)居住権は、次回以降、紹介します!

 

 ③ 遺された奥さんの死亡時

遺された奥さんも亡くなった場合には、配偶者短期居住権は消滅します(新民法1041条・597条3項)

 

 ④ 対象建物が使えなくなったとき

配偶者短期居住権の対象建物の全損など、対象建物が使えなくなった場合にも、配偶者短期居住権は消滅します(新民法1041条・616条の2)

 

5.対象建物の返還

遺された奥さんは、上記4②配偶者居住権の取得に伴う配偶者短期居住権の消滅時を除き、権利が消滅したときには対象建物を所有者に返還する必要があります(新民法1040条1項本文)

ただし、奥さんが対象建物の共有持分を有する場合には、配偶者短期居住権の消滅に伴う返還請求が認められず、民法の共有に関するルール(民法249条以下)によって返還の要否が決まることになります(法制審議会(相続関係)部会第25回会議(平成29年12月19日)資料25-2:3ページ~4ページ)

 

6.返還時の原状回復

対象建物を返還する場合に遺された奥さんに課せられる原状回復義務は、賃貸借契約終了時に借主に課される原状回復義務と同じ内容です(新民法1040条2項、599条1項・2項、621条)

 

7.配偶者短期居住権の財産的価値・評価

配偶者短期居住権によって受けた利益については、配偶者の具体的な相続分からその価額を控除する必要がないと考えられています(法制審議会(相続関係)部会第26回会議(平成30年1月16日)資料26-1:4ページ注1参照)

したがって、配偶者短期居住権を利用したときと利用しなかったときにおいて、遺された奥さんの相続財産の取り分には違いがでません。

また、配偶者短期居住権自体には相続税が課されないと考えてよいでしょう。

 

8.いつからスタート?

実は、短期配偶者居住権制度のスタート日は、2020年4月1日です。

この日以降に開始する相続(すなわち、2020年4月1日以降に亡くなったケース)において、短期配偶者居住権を利用できることになります。

 

第6回からは、今回の相続法大改正の目玉の1つ、配偶者(長期)居住権を紹介します。

 

相続法大改正紹介シリーズ

第1回:自筆証書遺言の方式緩和

第2回:自筆証書遺言の法務局での保管制度

第3回:配偶者短期居住権 Part 1

第4回:配偶者短期居住権 Part 2

第5回:配偶者短期居住権 Part 3