相続法大改正(その6:配偶者居住権 Part 1)
こんにちは。
新潟県三条市のひめさゆり法律事務所です。
相続法大改正を紹介するシリーズの第6回目は、配偶者居住権の新設です。
第3回、第4回、第5回では、配偶者が亡くなった場合に、遺されたもう1人が、亡くなった配偶者の名義であった自宅に最低6か月間は住み続けることができる「配偶者短期居住権」の紹介をしました。
でも、遺された方としては、できれば自分の最期まで同じ家に住み続けたいという想いを持つ人が多いのではないでしょうか。特に、遺された方が高齢の場合には、そのようなお気持ちの方が大半を占めるのではないでしょうか。
そこで、今回、先に亡くなった配偶者の遺言や、相続人同士の遺産分割協議での合意などにより、遺された配偶者が亡くなるまで同じ家に住み続け、収益を上げることができるという制度(配偶者居住権)が新設されました(新民法1028条~1036条)
旦那さんが先に亡くなった場合、奥さんが先に亡くなった場合のどちらでも同じく利用できる制度ですが、今回も、旦那さんが先に亡くなって、奥さんが遺されたというケースを用いて紹介します。
1.配偶者居住権の取得方法
遺された奥さんが配偶者居住権を取得するには、次の4つの方法があります。
① 遺産分割協議によって、配偶者居住権を設定することがまとまったとき(新民法1028条1項1号)
② 亡くなった旦那さんが遺言によって配偶者居住権を設定していたとき(新民法1028条1項2号)
③ 亡くなった旦那さんと遺された奥さんとの間の契約(死因贈与契約)により、配偶者居住権を設定していたとき(新民法1028条1項2号)
④ 遺産分割請求を受けた家庭裁判所が、配偶者居住権を設定する内容の審判(判断)を行ったとき(新民法1029条)
このうち、④家庭裁判所が配偶者居住権を設定する内容の審判(判断)を行うことができるのは、次の2つのいずれかのケースです。
- 共同相続人同士で、遺された奥さんが配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているケース
- 対象となる建物所有者の不利益の程度を考慮してもなお、遺された奥さんの生活を維持するためには配偶者居住権を設定すべきケース(ただし、遺された奥さんが配偶者居住権の取得を希望した場合に限る)
どのような場合に (B) のケースを使えるのかといった議論は、これから深まっていくと思います。
2.配偶者居住権の対象となる建物
配偶者居住権が設定される建物は、遺された奥さんが、
① 旦那さんの相続開始時(死亡時)に
② 住んでいたもの
に限定されます(新民法1028条1項)
短期居住権と異なり、遺された奥さんが「無償」で住んでいたことは、条件ではありません。
亡くなった旦那さんが複数の建物を所有していた場合であっても、遺された奥さんが住んでいなかった建物には、配偶者居住権は設定されません。
ただし、配偶者短期居住権と異なり、1つの建物の中でも奥さんが住んでいた部分だけに配偶者居住権が設定されるのではなく、その建物全体について配偶者居住権が設定されます。
旦那さんと奥さんが同居していたことは、配偶者居住権の設定条件ではありません!
1つ注意が必要なのは、亡くなった旦那さんが、遺された奥さん以外の人(例:子ども、親戚、全くの他人)と共有していた建物については、配偶者居住権が設定されません(新民法1028条1項ただし書き)。旦那さんと奥さんだけの共有であった建物は、OKです!
相続法大改正(その7:配偶者居住権 Part 2)では、配偶者居住権の期間や、配偶者居住権の登記などについて紹介します。
相続法大改正紹介シリーズ
第1回:自筆証書遺言の方式緩和
第2回:自筆証書遺言の法務局での保管制度
第3回:配偶者短期居住権 Part 1
第4回:配偶者短期居住権 Part 2
第5回:配偶者短期居住権 Part 3
第6回:配偶者居住権 Part 1