新型コロナウイルスをめぐる法律問題(第2回:給料・休業手当の支払)

こんにちは。

新潟県三条市のひめさゆり法律事務所です。

 

当事務所でも「いま私たちにできること」として

「新型コロナウイルスをめぐる法律問題(第1回:従業員の休業)」と題したブログを書きました。

 

第2回目は、新型コロナウイルスに関連して従業員が休む場合や従業員を休ませた場合における給与や休業手当の支払の要否についてです。

 

新型コロナウイルス問題に関連して、従業員が会社を休む場合・休まざるを得なくなる場合として、たとえば、次のようなケースが考えられます。

 ① 新型コロナウイルスに感染した従業員が会社を休んだ

 ② 職場で感染者が出たため、職場を一斉休業にした

 ③ 従業員が感染者の家族や濃厚接触者だったため、その従業員を休ませた

 ④ 従業員が旅行で感染多発地域に行ったため、その従業員を休ませた

 ⑤ 微熱や咳など、感染が疑われる症状がある従業員を休ませた

 ⑥ 新型コロナウイルスの影響で仕事が激減し、従業員に自宅待機要請をした

 ⑦ 学校が休校中の子どもの面倒を見るために従業員が仕事を休んだ

 

これら①から⑦のケースについて、従業員に給料等を支払うべきかどうかを簡単にまとめると、次の表のとおりです。

   給与・休業手当

支払の要否

 使える可能性のある助成金等
 ①新型コロナウイルスに

感染した従業員

 X  健康保険組合からの傷病手当金
 ②感染者が出て一斉休業した

職場の従業員

 〇

(※感染した従業員に対してはX)

 
 ③感染者の家族や濃厚接触者

だった従業員

 
 ④旅行で感染多発地域に行った従業員 〇   
 ⑤微熱や咳など、感染が

疑われる症状がある従業員

〇   健康保険組合からの傷病手当金
 ⑥新型コロナウイルスの影響で仕事が激減し、自宅待機要請を受けた従業員 〇   雇用調整助成金

(1日15,000円 /人を上限)

 ⑦休校中の子どもの面倒を見るために仕事を休んだ従業員 X   小学校休業等対応助成金

(1日15,000円 /人を上限)

 

それぞれのケースについて、次のとおり説明をいたします。

 

ケース①:新型コロナウイルスに感染した従業員が会社を休んだ

新型コロナウイルスに感染した従業員が会社を休む場合には、その従業員に対して、給料や休業手当を支払う必要はありません。

ただし、(i)その従業員が有給休暇取得を要請した場合や、(ii) 就業規則等に有給の「傷病休暇」や「疾病休暇」がある場合は、それらの規程に基づく対応が必要になります。

また、4日間以上の休みになる場合、従業員は、健康保険組合からの「傷病手当金」を受給できることもあります。

「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給について」Q&A:令和2年3月6日版

 

ケース②:職場で感染者が出たため、職場を一斉休業にした

新型コロナウイルスに感染した従業員自身への対応は、ケース①のとおりです。

その他の従業員には、少なくとも休業手当(平均賃金の60%以上:労働基準法26条)を支払うべきと考えます。

特に保健所からの閉鎖要請があった場合などには「その他の従業員には何も支払わなくてよい」という考え方もあるようです。とはいえ、仮にその他の従業員に対して一切支払わないとすると、休業期間終了後、感染した従業員が他の従業員から白い目で見られ、肩身がとても狭くなるのではないでしょうか。

休業期間終了後の事業継続を見据え、法律論だけではなく、職場環境や従業員の心情にも配慮して給与・休業手当の支払の有無を検討・判断する必要があります。

 

ケース③:従業員が感染者の家族や濃厚接触者だったため、その従業員を休ませた

従業員自身に症状が出ていないものの、職場での感染予防のために休ませる場合は、少なくとも休業手当(平均賃金の60%以上:労働基準法26条)を支払う必要があります。

 

ケース④:従業員が旅行で感染多発地域に行ったため、その従業員を休ませた

ケース③と同様、従業員自身に症状が出ていないものの、職場での感染予防のために休ませる場合は、少なくとも休業手当(平均賃金の60%以上:労働基準法26条)を支払う必要があります。

とはいえ、会社の心情としては「従業員が勝手に感染多発地域に旅行に行ったのに、なんで休業手当を支払う必要が出てくるのか?」と、なかなか納得するのは難しいのではないでしょうか。

このようなことができるだけ起こらないように、従業員が感染多発地域に旅行に行く予定を知ったときには、その従業員と事前によく話し合いを持つ必要があります。

 

仮に「従業員が感染多発地域に旅行に行った場合は、その後の一定期間は休ませる。ただし、旅行に行ったのは自己責任だから休業手当を支払わない」という取扱いにすると、その従業員が旅行に行ったことを会社に申告せずに出社してしまい、結果的に職場内の感染拡大につながってしまう可能性があります。

「正直に申告してくれるだろう」と性善説に依拠しすぎることなく、職場の安全を守るための現実的な対策を練る必要があります。

 

ケース⑤:微熱や咳など、感染が疑われる症状がある従業員を休ませた

まずは「給料を支払うべきか」や「休業手当を支払うべきか」という検討・判断よりも、そのような症状があるものの感染自体が確定していない従業員を休ませるかどうかの早急な検討・判断が必要になります。

感染判明前に休ませる場合には、少なくとも休業手当(平均賃金の60%以上:労働基準法26条)を支払う必要があります。ただし、その従業員に対して、有給休暇取得扱いとするよう話を持ち掛けること自体はできます(有給休暇取得の強制はできません)。

その後に結果として感染が判明した場合で、4日間以上の休みになったときは、従業員は、健康保険組合からの「傷病手当金」を受給できることもあります。

「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給について」Q&A:令和2年3月6日版

 

ケース⑥:新型コロナウイルスの影響で仕事が激減し、従業員に自宅待機要請をした

この場合は、少なくとも休業手当(平均賃金の60%以上:労働基準法26条)を支払う必要があります。

このようなケースに会社が支払った休業手当は、従業員1人あたり1日15,000円を上限に「雇用調整助成金」による補填の可能性があります。

雇用調整助成金に関する厚生労働省ホームページ

この助成金制度は「従業員が自分で申請して従業員が助成金を受け取るシステム」ではなく「会社が従業員に支払った休業手当を会社が事後的に補填してもらえるシステム」です。

 

ケース⑦:学校が休校中の子どもの面倒を見るために従業員が仕事を休んだ

この場合は、従業員に対して給料や休業手当を支払う必要がありません。

ただし、休校中の子どもの面倒を見るために従業員が有給の休暇(年次有給休暇ではありません)を取得して会社が有給手当を支払った場合には、会社は、その従業員1人あたり1日15,000円を上限に「小学校休業等対応助成金」を受給できる可能性があります。

厚生労働省ホームページ「小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援のための新たな助成金を創設しました」

この助成金制度は「従業員が自分で申請して助成金を受け取るシステム」ではなく「会社が従業員に支払った有給手当を会社が事後的に補填してもらえるシステム」ですので、会社の理解と協力が不可欠です。対象となる従業員がいる会社は、活用をご検討ください。

 

おわりに

「給料を支払う必要があるのか」や「休業手当を支払う必要があるのか」といった法律論が大切ではないとは申し上げません。

ただ、企業による実際の思考過程・思考回路は、そのような法律論だけに基づき判断するのではなく、

 

支払った場合のインパクト(例:①会社の体力への影響、②助成金受給のタイミング、③助成金受給までの資金繰り)

支払わない or いったんは支払を保留する場合のインパクト(例:①支払わないことによる従業員の士気や職場の雰囲気への影響、②支払わないことによる会社へのペナルティの有無、③支払わない扱いにすると、会社に体調不良等を申告しない従業員が出てくる可能性)

 

を総合的に考慮したうえでの判断になるのではないでしょうか。ぜひとも弁護士等の専門家とご相談のうえでご検討・ご判断ください。

 

(おことわり)本稿は、ご参考のための一般的な見解として、作成時の情報・知見等に基づき作成しております。個別具体的な問題につきましては、弁護士等の専門家にご相談ください(当事務所お問い合わせフォーム