新型コロナウイルスをめぐる法律問題(第4回:「未来券」発行に関する法律問題)
こんにちは。
新潟県三条市のひめさゆり法律事務所です。
当事務所でも「いま私たちにできること」として
新型コロナウイルスをめぐる法律問題に関するブログを書いています。
(第3回:やむを得ず従業員に会社を辞めてもらう際のチェックポイント)
第4回目は、これまでの労働問題に関する法律問題からは分野を変更し、商品券発行の際に気を付けておきたい法律を紹介します。
目次
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未来券の発行
飲食業界やホテル業界を中心に、コロナウイルス問題の終息後や一定期間経過後(例:1年後)に初めて使用可能となるタイプの商品券の発行が広がりを見せています。
希望を込めて「未来券」とのネーミングにしているケースも見受けられます。
商品券を有償で発行する場合には「資金決済に関する法律」(いわゆる「資金決済法」)に注意してください。
この資金決済法は、紙の商品券のみならず、図書カードやQuoカードなどのプリペイドカード、waon、nanacoや楽天Edyなどのチャージタイプの電子マネー、SuicaやPASMOなどの交通系電子マネーなどを「前払式支払手段」と位置付けて、一定の規制を課しています。
商品券を買う行為とは、将来お店に行って物を買ったり飲食したりすることを予定して現金を「前払い」する行為といえます。前払いしたけど、いざ商品券を使おうと思ったら使えなかった、ということがあっては困りますよね。
このような困ったことが起こらないよう、資金決済法は商品券や電子マネー等に関するルールを定めています。
この「前払式支払手段」には「自家型」と「第三者型」の2種類あります。
「自家型」とは、その商品券や電子マネーを、発行した事業者の店だけで使用できるタイプのものです。
たとえば、A社というスーパーマーケット運営会社が発行している、A社自社系列のスーパーだけで使用できるチャージタイプの電子マネーは、この「自家型」前払式支払手段にあたります。
もう1つの「第三者型」とは、商品券や電子マネーを発行した事業者以外の事業者の店でも使用できるタイプのものです。
紙の商品券としては全国百貨店共通商品券、電子マネーとしてはJR東日本のSuicaなどが代表的な「第三者型」前払式支払手段です。
有効期限を発行日から6か月以内に設定した「自家型前払式支払手段」には資金決済法の規制がかかりません(法4条2号・政令4条2項)
よって、発行した事業者のお店だけで利用できる商品券の有効期限を発行日から6か月以内にする場合には、資金決済法の心配は不要です。
とはいえ、現時点ではコロナウイルス問題の終息時期の見通しを立てづらいため、有効期限を6か月以内に限定した商品券の発行は、なかなか難しいかと思います。
有効期間を6か月超に設定した「自家型前払式支払手段」を発行する者は、たとえば商品券の裏面への掲載やホームページへの掲載などを通じて、次の情報を利用者に対して提供する必要があります(法13条1項・府令22条2項)
(1) 発行者の氏名、商号または名称
(2) 支払可能金額等
(3) 有効期限等がある場合は、その期限等
(4) 利用者からの苦情相談窓口の所在地および連絡先
(5) 利用することができる施設または場所の範囲
(6) 利用上の必要な注意
(7) 電磁的方法により金額等を記録している場合は、未使用残高またはその確認方法
(8) 約款等がある場合には、その約款等があること
③ 未使用残高が1000万円超になった場合には供託義務が発生
有効期間を6か月超に設定した「自家型前払式支払手段」を発行する場合は、供託義務にも注意が必要です。
毎年3月末・9月末時点における発行済み商品券の未使用残高が1,000万円を超えてしまうと、その未使用残高の1/2以上の金額(すなわち最低500万円)を保証金として法務局に供託する必要があります(法14条1項・政令6条)
また、未使用残高が1000万円を超えた場合は、その算定基準日となった3月末または9月末から2か月以内に、管轄の財務局長等に対して、届出を行う必要があります(法5条)
コロナウイルス問題による売上減を補うために将来用の商品券を発行するわけですから、500万円ものキャッシュを準備して供託するのは現実的ではないと思います。
商品券を発行する場合には、発行上限額のコントロールをお願いします。
「第三者型前払式支払手段」も有効期限を発行日から6か月以内に設定した場合には資金決済法の規制対象外です(法4条2号・政令4条2項)
有効期間を6か月超に設定した「第三者型」の商品券を発行するためには、発行額を問わず、発行前に財務局長等の審査を経たうえでの登録を受ける必要があります(法7条)
登録を受けないで「第三者型」商品券を発行した場合には、罰則の対象となります(法107条1号)
「商店街内の各店舗で使用できる商品券」や「複数の飲食店で共通して使用できる商品券」は、基本的には「第三者型」の商品券に該当します。そのようなタイプの商品券発行を考えている場合は、あらかじめ弁護士にご相談ください。
有効期限が6か月超の「第三者型前払式支払手段」の場合も、未使用残高が1,000万円を超えてしまうと、その未使用残高の1/2以上の金額(すなわち最低500万円)を保証金として法務局に供託する必要があります(法14条1項・政令6条)
また、情報の提供義務も同様に課せられます(法13条1項・府令22条2項)
(おことわり)本稿は、ご参考のための一般的な見解として、作成時の情報・知見等に基づき作成しております。個別具体的な問題につきましては、弁護士等の専門家にご相談ください(当事務所お問い合わせフォーム)